東京メトロ地下鉄の駅名は、どこも肉太のゴシック体で表示すると相場が決まっている。
それは銀座駅も同じこと。
銀座線、丸の内線、日比谷線が交わる銀座駅も、駅名は東京メトロのロゴマークの横にくっきり目立つゴシック体で書かれている。
だがわたしの知る限り、C6出入口だけはちと違う。
鮨の夢を見るという噂の二郎さんのお店が入っているのが数寄屋橋交差点近くの塚本素山ビル。そのビルと繋がるのがC6出入口で、その地上出入口の天井に控えめに付いているのがこのサインだ。
「銀座駅」の文字はレトロな雰囲気をかもしだす明朝体。その下に控えめな大きさのゴシック体で「GINZA」とある。
蛍光灯の青白い光がなんともよく似合うこのサインは、ここだけ時間の流れがゆったりして、「駅名は肉太ゴシック体に変更しなさい」というメモを読み忘れているようにも見える。
どんなに慌ててこの出入口の階段を駆け上がっていても、この美しい明朝体を見ると何だかほっとして立ち止まってしまう。
東京メトロ地下鉄は来年開催されるらしい東京オリンピックを意識してか、あちこち盛んに化粧直しをしているが、どうかここだけは手を付けず、このまま残して欲しい。
C6出口を通るたびにそう願うのだった。