LAのとある家具&ホームアクセサリー用品店で買い物をしていた時、展示されていたホームオフィス用のデスクの上にハリネズミがちょこんと立っていた。
モニターとキーボードの間に立ち、その脇には、大判のポストイットと鉛筆、消しゴムが「さりげなく」置いてある。
まるで「消しゴムのカスやキーボードの埃は私にお任せあれ!」とでも言うように、誇らしげにモヒカンスタイルの毛を逆立てるハリネズミ。
キュートさにやられて思わず一匹家に連れて帰ったが、このハリネズミが予想以上に使い勝手が良く、驚いた。
何よりもまず、手に持った時にしっくり手のひらにおさまるサイズと形が絶妙なのだ。

木製の小さなボディは掌にピタリとおさまる。
お尻は人差し指を添えるのにちょうど良い角度で、細く長く突き出した鼻のカーブには薬指が自然に乗っかる。
ツンと上を向いた鼻は手首を突くこともない。
手を握る自然な動作でブラシを持て、どこにも力をかける必要がない。
右利きであろうと左利きであろうとパッと手に取ると手の中に自然におさまり、テーブルの上やキーボードをさっと掃く動作が無意識にできる。
この素晴らしいデザインのブラシを作ったのは、1935年創業のドイツの老舗ブラシメーカー Redecker(レデッカー)だ。
さすが老舗。可愛さのためだけに動物の形を模したわけではなく、使い勝手とルックスの両方を追求したらハリネズミの姿になったのだろう。

オイル仕上げのビーチウッドに黒い馬の毛を生やしたハリネズミはたった1.5cmくらいの厚みしかないのにバランス良くしっかりと立つ。
掃除用のブラシのくせに生活感がなく、ちょっとその辺に置いても置物として立派に通用する。
必要な時にすぐに手を伸ばせるところに立たせておけば、いざという時に頼りになるハリネズミ。
あまりにもキュートで使い勝手が良いので、これは東京にいる妹にアメリカ土産として買って行ってやろうと思っていたある日。
妹とビデオ電話で話していて、なんの気なしに「とても良いテーブルブラシを見つけたから次に帰省する時にお土産に買って行く」と話すと、「テーブルブラシはもう持っているからいらない」と言われてしまった。
「いや、このブラシは本当に素晴らしいから絶対に気に入るよ!」
そう力説しながら、横にあったハリネズミブラシをカメラの前に振りかざして見せると、妹が途端に大爆笑し始めた。
一体どうしたのかと呆気に取られていると、妹は笑いながらモニターの脇に手を伸ばし、何かを手に取ってパソコンのカメラの前に差し出した。

きっと我が家のハリネズミは鏡を見ていると思ったに違いない。妹が見せたのは自分と瓜二つのレデッカーのハリネズミブラシだったのだから!
偶然にも私と妹は太平洋をはさんだLAと東京で全く同じブラシを購入し、そうとは知らずにそれぞれ愛用していたというわけだ。
そうやって、パソコンの前に座り、お互いの画面に映るハリネズミを見ては大笑いしたのがかれこれ7年前のこと。
テーブルブラシの逸品のハリネズミは、我が家でも妹の家でも、今日も元気にお掃除当番中である。
Photo by Yoko Kadokawa
Information
Bürstenhaus Redecker オフィシャルWebサイト(英語)
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