この石けんを使い始めてそろそろ16年になるだろうか。
最初に出会ったのは東京からニューヨークに引っ越して数ヶ月が経った頃だ。
液体のボディソープより固形石けんを手の中でクルクル回して泡立てるのが好きなわたしは、まだ勝手がわからないニューヨークでこれまで使ったことがない石けんをあれこれ試しては、気にいるものを探していた。
だが、どれも香りや泡立ちは良いものの、すぐに浴室でドロドロに溶けてしまう。壁に作りつけられたソープディッシュにはいつもスライム状になった石けんの残骸がくっついていた。
それを見るたびに「今度もまた負戦だったな……」と『七人の侍』の勘兵衛の台詞をつぶやき、また新しい石けんを買ってきては試す。その繰り返しが数ヶ月続いていた。
こうなったら液体のボディソープに切り替えるかと諦めかけていた時、近くのホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)のボディケアコーナーでこの石けんに出会った。
キャンペーン中なのか、小さなテーブルに色違いの石けんがピラミッド型に積み上げられている。
今ではカットアウトがあしらわれた綺麗な紙箱の中にころんと卵形の石けんが入っているが、当時は角を丸めた直方体の石けんがプラスチックラップで包まれた状態で売られていた。
たっぷり8oz (約227g)もあるかなり大きな石けんが、色ごとに小さなテーブルを与えられ、それぞれにピラミッドを作っている。
自然な香りに引き寄せられて一つ手にとって見ると、何やら誇らしげに「French Milled Bar Soap」と書かれている。
原材料にはオーガニックのシアバターを含む100%植物性オイル、天然色素、ナチュラルオイルかエッセンシャルオイルを使っていると記載されていた。
お値段は成分や大きさの割りには安く、1つ3ドル。
ふと「こんなに大きな石けんがまたスライムになったら嫌だな」と頭をよぎったが、値段と香りに惹かれて珍しい「マンゴー」の香りの石けんを試してみることにした。
「ビンゴ!」というのはこういう時に言うのだろう。これが大当たりだったのだ。
まず、泡立ちが良いのにドロドロに溶けることがない。
スライムに変身したりせず、形を保ったまま少しずつ小さくなってくれるのだ。
その上チビてしまっても最後までしっかりと泡立つ。
だが何よりも素晴らしいのはその香り。
プラスチックパッケージの下からでも芳しい香りが漂っていたが、パッケージを剥いだ途端、中に閉じ込められていた香りが一気に弾けてバスルームいっぱいに広がる。
マンゴーの石けんを使うと、バスルームのドアを開けるたびにマンゴーの甘くて青いナチュラルな香りに包まれて南国のマンゴー畑に迷い込んだような気分になる。
ラベンダーの石けんを使うと、そこはもうラベンダー畑。
ガーデニアの石けんは、夏の夜にしっとりと薫る真っ白なクチナシの花に包まれた気分にさせる。
レモン・バーベナの石けんはフレッシュなレモンの香りの清々しさをもたらす。
たくさんある香りの選択肢から自分好みのものを選びさえすれば、バスルームに入った途端、幸せな気持ちになるのだ。
あいにく、お気に入りだったマンゴーは何年も前に廃盤になってしまったが、今ではラベンダー・フィールズが我が家の定番だ。
あまりにも香りが良いので、うちでは買い置き分をクローゼットの中に置いて防虫剤変わりにしている。
石けんに含まれるエッセンシャルオイルが虫除けになるし、クローゼットを開けるたびにほんのり良い香りがして豊かな気持ちになる。
以来、どの国に引っ越ししようと、South of France のバーソープを取り寄せて使っている。
長年使っている間に形やサイズ、パッケージが変わり、新しい香りも紹介され、作られる場所もフランスからアメリカに変わったが、オーガニックのシアバターと植物性オイル100%を使って伝統的なマルセイユ石けんの製法で作られているところはずっと変わらない。
自分のお気に入りの香りを見つければ、バスルームに入るたびに幸せな気分になるはずだ。
Information
South of France Webサイト(英語)
* South of France のバーソープは現在6 oz(約170g)サイズです。
* South of France は日本では取扱店がありませんが、オンラインストアの iHerb で購入できます。iHerbの South of France 固形石けんのページはこちら。(こちらのリンクからご購入いただくと5%offになります。)