神保町の古本屋街で古本を物色していると、ポケットの携帯がブルブル震え始めた。
慌てて外に出て電話を取ると、小さな子どもが嬉しそうに話し始める。
「もしもし? おばあちゃん? ボクいまプレゼント開けた。ありがとう!」
小学生になるかならないかという年頃の子どもがお礼を言ってくれるのだが、私に孫はいない。
「間違い電話ですよ」と言っても通じにそうにない相手に、とりあえず「それはよかったねー」と相槌を打ちながら、夢中になってプレゼントの話を始める子をなんとか遮る。
「お父さんかお母さんに変わってくれる?」
そう言うと、どうやらすぐ横で電話のやりとりを聞いていたその子の母親と思しき人物が、訝しげな様子で電話口に出た。
「あの、電話番号をお間違えのようですよ」
そう告げると、「え? え? え?」と3回の「え」の後に「おばあちゃんじゃない……」と言う声が聞こえて通話はプツリと切れてしまった。
ありとあらゆる電話番号を登録できるスマホの時代に、「おばあちゃん」への電話をかけ間違えるのも珍しい。
間違い電話の子が自分で番号を入力したのだろうか?
おばあちゃんからもらったプレゼントって何だったのだろう?
そんなことを考えながら本屋に戻ろうと振り返った時、何かを手にして嬉しそうに走る子どもの姿が目に留まった。
正確には、「何かを手にして嬉しそうに走る子ども」のセピア色の写真を配した看板が目に入った。
きっと間違い電話の子どももこんな風に喜んでいたに違いない。
