とっぷりと日が暮れたある夜、京都御所近くを急ぎ足で歩いていたら、ニコニコ顔で微笑む太陽がいた。
ヤマザキパンの太陽だ。
そういえば子供の頃、ヤマザキパンのお店にはよくお遣いに行かされた。
買ってこいと言われるのはいつもきまってパンの耳。
親は洋食屋を営んでいたのだが、看板メニューのハンバーグやエビフライ、カニクリームコロッケに使う生パン粉は、近くのヤマザキパンからパンの耳を仕入れて作っていた。
お金を握り締めてヤマザキパンまで走り、「こんちわ〜!パンの耳ください!」と叫ぶと、食パン1本入る長いビニール袋いっぱいのパンの耳が奥から出てくる。
「ありがとうございまーす!」
ずっしりした重みで下に沈みがちなビニール袋の口を持ち、引きずらないようにそれをプロペラのようにブンブン振り回しながら家に帰る。
そんな昔を思い出した。
「そういえば、ヤマザキ春のパンまつりの時期だな」
ショルダーバッグをプロペラのように振り回したくなるのをぐっとこらえ、懐かしい看板を後にして実家に向かった。