金継ぎで直す:欠けた急須の注ぎ口

急須の注ぎ口の先っちょが欠けてしまった。

本当は丸くカーブを描いているはずの先端が、ある日気づいたら四角く尖って鋭くなっていた。

欠けた急須の注ぎ口

他にも小さくかけているところがあるが、気にしなければこのまま不自由なく使えそうな感じ(なんせしばらく気づかなかったくらいだ)。

だが、去年金継ぎを再開してからというもの、割れたり欠けたりした器を見ると妙に心が躍る体質になってしまったので、一旦気づいてしまった途端「これを直したい」という欲望がむくむくと湧いてきた。

たぶん欠損してしまった注ぎ口の先端にカーブを描いた先っちょを数ミリほど「増築」する作業になりそうで、なんだかちょいと難しそう。

なんせわずかな接着面の上に(正確には横に)漆と小麦糊と木粉を練って作ったパテで先っちょを造形し、それが倒壊しないようにしっかりくっつけないといけない。

でも難しければ難しいほどうまく出来上がった時の喜びも増すし、いくつか欠けを直してちょっぴり自信もついたし、よーし!ってことで、別に直さなくても支障のない急須の口の金継ぎにチャレンジすることにした。

「なーに、失敗したときは諦めてそのまま使えばいいのさ〜」と自分に言い聞かせて。

欠けた急須の注ぎ口

まずは下準備に取り掛かろう。

欠けた部分に希釈漆(生漆をテレピン油で薄めたもの)を薄く塗って拭き取り、そのまましばらく放置する。こうすることにより接着面にうっすら残った漆が「増築」部分のパテの食いつきを良くしてくれるんだそうな。

うっすら塗った希釈漆を乾かしている間に漆のパテ、つまり刻苧漆(こくそうるし)を作る。

刻苧漆は「麦漆」に木粉を混ぜたものなので、まずは麦漆作りから。

小麦粉と水をほぼ同量とってよく練り、しっかり粘り気を出してお団子にする。

この小麦団子に生漆を少しずつ混ぜていく。

最初は混ざりにくいが、ちょっとずつ混ぜていくと粘ってねっちょり糸を引くようになる。これで麦漆の完成だ。

この状態で割れた器の接着に使えるのだが、今回はここに木粉を混ぜ込んでパテ状の刻苧漆にする。

うっかり木粉を混ぜ込んでるところの写真を撮り忘れたが、木粉を混ぜて出来上がったのがこれ。

このパテを乾かしておいた急須の先っちょにちょっとずつ乗せてはギュッギュと押しつけて盛っていき、サランラップでサンドイッチして指やヘラで押さえながら希望の形に造形していく。

が、これが想像していたよりも難しい。

なんせ欠けた部分の面積が小さい上に横を向いているので、そこにパテで「増築」しても、支えていた指を離した途端、重力にひっぱられて「増築」部分がポトリと落ちてしまうのだ。

サランラップを当てて壁にしつつ綺麗に「増築」し、重力を考慮して急須の向きを変えてからサランラップを剥がしたところ、今度は「増築」部分がサランラップにくっついて全部剥がれる。

「くっそー!」と思ってやり直し、そぉーっとラップを剥がしても、剥がした後を綺麗にしようとヘラで触った途端またもやポトリと落ちる。

下準備で希釈漆を塗っておくと「うっすら残った漆がパテの食いつきを良くしてくれる」はずじゃなかったのか?

自分で自分に文句を言いながら、だんだんムキになりつつ何度もやり直す。ようやく「増築」に成功した頃にはたっぷり一時間が経過していた。

横から見るとラインがあまり綺麗ではないが、もうこれで精一杯。

乾いてから少し削ればましなラインに整えられるだろうと自分に言い聞かせ、濡れたペーパータオルを敷いた段ボール箱の中に入れて乾かす。

しっかり乾かすには3週間ほどかかるが、3日ほど経ったところで様子を見る。

刻苧漆はあまり分厚いと内側がしっかり乾かずに失敗することがあるので、ちょいと爪楊枝でつついて乾燥具合を確かめる。

すると……

とれてしまった。

何の抵抗もなく、ぼそっと落ちた。

やり直しだ。

気を取り直して注ぎ口についている残りのパテを綺麗に取り去り、新しいパテを作ってまた小一時間ほどかけて増築する。

今度は数日後の乾燥チェックに爪楊枝は使わず、目視だけで済ませて3週間じっと我慢。

3週間後に取り出して、はみ出ている部分やくっついてしまった余分なパテをそぉーっとそぉーっと彫刻刀で削りながら「増築」部分を綺麗にする。

すると、彫刻刀の力に耐えきれず、またしてもポロリ。

またやり直す。

そしてまたポトリ。

これを何度か繰り返し、ようやくしっかり本体にくっついた状態で乾燥させることができたのは、「増築」を始めてから3ヶ月経った頃だった。

本当ならすでに金継ぎが完成していてもおかしくないくらい時間がかかってしまった。

もうこうなると、触っても取れない注ぎ口の「増築」が終わっただけで完成した気分。

最新の注意をはらって表面の凸凹を彫刻刀でそっと削り、サンドペーパーで表面をなるべく綺麗にならす。これが普通の欠けならもっと丁寧に削るが、またポトリと落ちては困るので、適当なところで妥協する。

念のために増築部分に希釈生漆を染み込ませて乾かし、しっかり補強するのも忘れない。

そしてようやく漆に砥の粉を混ぜたペースト(錆漆)を表面に塗って表面を滑らかにする作業にとりかかる。

ここまでくると少し安心だ。

錆漆を塗っては乾かし、削って表面を磨くという作業を繰り返して、納得のいく滑らかさになったらいよいよ漆の下塗りだ。

うっすら塗っては乾かし、研ぎ、もう一度うっすら塗っては乾かし、研いで表面を滑らかにしたところで、最後の仕上げにもう一度黒い漆を塗って錫を蒔く。

そうやってようやく完成したのがこちら。

金継ぎで直した急須の注ぎ口

よく見ると小さな傷があるが、欠けは埋まったし、注ぎ口のカーブもまあまあ綺麗にできたし、何よりももうポトリと落ちるのを心配しなくて良い。多分。

いやはや、今回はずいぶん苦労したが、そのせいか、このシャンパンゴールドの注ぎ口から出るお茶が一層美味しく感じられるわい。

金継ぎで直した急須の注ぎ口

Photo by Sooim Kim

Sooim KIM 

面白い映画、演劇、ドラマを求めてあちこちをさまよいつつ、美味しいものを食べ、好奇心にまかせていろいろ作る。

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