冬至といえば日本ではかぼちゃを、韓国では小豆粥を食べる日だが、香港では「湯圓(トンユン)」を食べる日だ。
湯圓(または湯丸)は中国の伝統的な軽食、小吃(シャオチー)の一つで、地方によってバリエーションがあるらしいが、スープに浮かべた丸い餡入り餅団子のことをいう(らしい)。
私がこれに出会ったのは香港に住んでいた頃で、佐敦にいつも人だかりがしている「佳佳甜品」という甜品店(デザート店)で食べたのが最初だった。

香港スイーツに疎かった私は、香港ではデザートにスープ団子を食べると聞いて興味津々。店に入っても何を注文しようか心が決まらず、周りの人が何を食べているかこっそり偵察する。
相席テーブルの先客はどろっとした糊状の黒い胡麻スープ。
その隣のお連れさんはオレンジ色をしたさつま芋の塊がたっぷり入った黄色いスープ。
向こうのテーブルでは白玉団子が浮かんだ黄色いスープを食べている。
どうやらそれが一番人気らしく、初めてなので私もやっぱりそうしようと、甘い生姜スープに胡麻餡入りの白玉団子が入った「寧波薑汁湯丸」を注文する。
しばらくして出てきたのは小鉢になみなみと注がれた熱々の黄色いスープとその中で白く艶やかに光る白玉団子。

まずは湯気の立ち上る黄色いスープを一口すすってみる。
か、辛い!
生姜湯だから甘辛いとは思っていたが、生姜が効いているなんて生やさしいもんではない。思わずむせて咳こむくらい生姜の辛さがガツンとくる。だがそれでいてしっかり甘い。
気を取り直して白玉団子を1つすくい、スープと一緒に団子を口に運ぶ。
噛むともちもちつるんとした団子の中から甘い黒胡麻餡がとろりと出てくる。
それが口の中で生姜スープと混ざり合い、胡麻と生姜の香りがぶわっと広がる。
もちもちの白玉の歯応えと胡麻餡のちょっぴりじゃりっとした歯応えの違いもたまらない。
なんて美味い食べ物だろう!
たっぷり8個も入っていた黒胡麻餡入り白玉を堪能し、残ったスープを飲み干す頃には生姜の辛さと甘みが五臓六腑に染み渡って身体の芯からほかほかになった。
以来すっかりハマってしまい、佐敦に行くたびに「佳佳(カイカイ)」に寄っては「湯丸」を食べるという香港生活を2年過ごす。(「佳佳(カイカイ)」では「湯丸」と名前のついたメニューはこれだけだったので、下手くそな発音で「トンユン」と言うだけで望みのものが食べられるというのもまた嬉しかったのだ。)
そんな私が冬至の今日、トンユンを食べないで過ごせるはずがない。
もちろん香港の「佳佳甜品」に行くことはできないが、材料さえ揃えれば家でも作れるはず。
ということで、今年の冬至は佳佳の薑汁湯丸を家で再現してみることにした。
段取りとしては、
1 生姜スープ用に生姜を煮出し、
2 胡麻餡を作り、
3 白玉粉を捏ねて胡麻餡を包み、
4 茹で、
5 甘味をつけた熱々の生姜スープに入れて食べる
という感じ。
よーし、さっそく作ってみよう!
生姜スープを作る
まずは生姜スープを作る。
生姜スープの材料(2〜3人分)
・生姜 30g (皮をこそげて薄切りか千切りにする)
・水 500cc
・きび砂糖 大さじ2〜4
といっても生姜を千切りにしたものと水を鍋に入れて火にかけ、黒胡麻餡入りの白玉団子ができるまでグツグツと煮出して生姜の辛味をしっかり引き出すだけだ。
団子ができたら生姜は取り出し、スープに甘味をつければよい。
この方法で作るとスープがクリアになり、出汁ガラの生姜は佃煮にできるので一石二鳥でおすすめなのだが、もし生姜を煮出すのが面倒な場合は市販のインスタントの生姜湯を使うのがお手軽だ。なんせお湯を注げば出来上がりなので、我が家の常備品でもある。
私のお気に入りはカルディ・コーヒーファームで買えるこれ。

とろみがつかないタイプで、原材料はシンプルに生姜と黒糖他の糖だけなのも気に入っている。
だが今日は生姜を煮出して生姜スープを作るので、「黒糖しょうがぱうだー」には万が一生姜スープの煮出しに失敗の時まで待機しておいてもらおう。
黒胡麻餡を作る
生姜スープを煮出している間に白玉団子の中に入れる黒胡麻餡を作る。
必要な材料は2〜3人分(一人いくつずつにするかで決まる)でこれだけ。
黒胡麻餡の材料(14〜16個分)
・すり胡麻(黒) 大さじ1(約15g)
・ねり胡麻(黒) 大さじ1(約15g)
・砂糖 大さじ1(約15g)
・ごま油(またはサラダ油) 少々
ごま油以外の材料を全てボールに入れてよく混ぜる。甘さはこの時点で味を見て加減すると良い。
混ぜてみてパサパサしているようであればごま油を少し垂らし、指でぎゅっとつまむと固まるくらいの柔らかさにする。
それを直径1.5cmくらいの小さな団子に丸めておく。
この材料でだいたい14〜16個くらいできるはず。



白玉団子を捏ねて黒胡麻餡を包む
黒胡麻餡が15個できたので、それを包む白玉生地を作って胡麻餡を包んでいこう。
いつも使う白玉粉は200g入りで、だいたい40粒できると書いてある。中に餡を包む場合は少し多めに白玉粉が必要なので半分の100gを使って白玉団子をこねることにした。
白玉団子の材料(14〜16個分)
・白玉粉 100g
・水 90〜95cc
ボールに白玉粉をどさっと入れ、計量しておいた水を少しずつ加えながらよくこねる。
最終的にだいたい耳たぶくらいの柔らかさにして黒胡麻餡を包んでいくのだが、これがなかなか難しい。捏ねた白玉の生地はパコっと割れやすいので、ちょっと加減を間違うと皮がパコっと割れて黒胡麻餡が顔を出してしまうのだ。
そんな場合は破れたところに白玉生地を付け足してなんとか穴を塞げばよいのだが、実は今年の春、「生熟面团混合法」という目から鱗が落ちるような白玉の作り方をTwitterで知った。
固めにこねた白玉から一部(20分の1くらい)をとりわけてまずそれを茹で、それを元の生地に戻して全て混ざり合うようによくこねるらしい。
この方法で作ると破れない皮の白玉になるというので、今回はこの方法でやってみた。
気持ち固めにこねた白玉の生地の一部を沸騰した湯の中でいつも通り茹で、水にとって粗熱をとってから元の生地に戻す。
それをよく捏ね混ぜる。


茹でた生地は弾力があって生の生地と混ざりにくいが、めげずにしつこく捏ね混ぜる。
そうするとやがて一体になり、出来上がった生地は生の生地よりも弾力感のある生地になった。
それを黒胡麻餡の数と同じ数になるよう等分に分けてざっと丸めておき、一つずつ中に胡麻餡を入れて包んでいく。
餃子の皮のように平たくして包んでも、丸に凹みを作ってその中に餡を入れて閉じても、やりやすい方法で。



全部で15個包み終わった。

芝麻湯圓を茹でる
鍋にたっぷりの湯を沸かし、胡麻餡を包んだ白玉団子こと芝麻湯圓を入れて茹でていく。
しばらくすると浮き上がってくるので、そのまま1分ほど放置してから引き上げ、冷水に放す。


生姜スープに甘味をつけて芝麻湯圓を入れる
白玉団子を茹でている間に、熱々の生姜スープから生姜の千切りを取り除き、砂糖を溶かして好みの甘さにしておく。
インスタントの生姜湯を使う場合もここで用意する。
小鉢に芝麻湯圓を好きな数だけ入れ、上から熱々の生姜スープをかけて出来上がりだ。



生姜の種類が違うのか、「佳佳甜品」の寧波薑汁湯丸のような辛さは出せず、色もあんな黄色にならなかったが、それでもやっぱり美味しい。
やっぱり冬至に食べるのはこれでなくっちゃ!
香港を思い出しつつトンユンを食べ、芯からほかほかになった冬至の夜であった。